平和の重いバトンをつなぐ
3月10日、2025年度の卒業式が執り行われました。
73期生251人が、後輩たちと教職員一同、そして保護者の皆さまに見守られながら、晴れがましい笑顔で学び舎を巣立っていきました。
昨秋の顔面神経麻痺による入院以来、「校長ブログ」の更新が滞ってきましたが、今日は卒業式の校長式辞と「保護者会だより」に寄せた文章を共有いたします。
2025年度卒業式 校長式辞
73期生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
そして保護者の皆さま、今日この日を迎えられましたことを、心よりお祝い申し上げます。
73期生は私が校長として送り出す最初の卒業生です。
ただ、実は皆さんとの一番の思い出は校長になる前の出来事です。
一昨年の秋、皆さんの修学旅行に、私は校長就任を控えた立場で参加しました。
忘れがたいのは被爆者の松尾幸子さんの講話をうかがったときのことです。私自身、被爆者の肉声にふれるのははじめての経験でした。
原爆資料館のホールで、私は引率の先生方と一緒に、皆さんの様子を後ろから見ていました。
皆さんは、一言も発せず、身じろぎもせず、松尾さんの壮絶な被爆体験に聞き入っていました。終盤、松尾さんが反戦への強い思いを語られたとき、多くの生徒が涙をぬぐっていた姿をはっきりと覚えています。
そのとき、なぜ我が校の修学旅行の行き先が長年、長崎なのか、はっきりとわかりました。
長崎は、創設者であり初代校長の森志久馬先生の出身地です。長崎のシンボル、平和記念像をつくった北村西望と森先生は親交がありました。千葉商科大学のキャンパスにある森先生の銅像は、西望の手になるものです。この体育館の入り口に立つ少年像も西望の作品です。
この学校は、創設者までさかのぼる、深いゆかりのある長崎の地で、若い世代が平和について考える機会を大切にしてきました。
あの日、私たちは松尾さんからバトンを受け取りました。先人が築いてきた平和をつなぐ、重いバトンです。
今、ここにいる2年生の皆さんも、同じようにして、バトンを受け取りました。
皆さんの手にあるそのバトンは、今、一段と重みを増しています。
残念ながら、世界は平和から遠ざかっているからです。
そんな時代に、私たちは何ができるのでしょうか。
力の時代に平和ボケは許されない。そんな声を耳にすることがあります。
たしかに、世界の厳しい現実から目をそらしてはならないでしょう。
しかし、たとえそうであっても、平和を願う心を手放すべきではありません。
そして、平和を築くために、私たちは社会の分断を乗り越えなければなりません。
ともに力を合わせる道を諦めてはならないのです。
2014年、今から12年前に、私は新聞記者としてポーランドを訪れ、民主化運動を率いたワレサ元大統領にインタビューしました。
インタビューしたのは、ロシアがウクライナ領のクリミア半島を一方的に併合した直後でした。いま振り返れば、それは武力で問題を解決しようとする動きが世界に広がる転換点でした。
東西冷戦時代に自由のために戦ったワレサ氏は、そんな流れに対抗するためにも、我々は「連帯」しなければならないと力強く語りました。
「連帯=ソリダルノシチ」。それはポーランドの民主化運動を支えた言葉でした。ワレサ氏本人の口から語られたその言葉は、私の中に今も重く響いています。
皆さんはこの困難な時代に大人になり、それぞれの道に巣立とうとしています。
新しい、希望に満ちた生活のなかでも、暗いニュースに触れて、悲観的な気持ちになることが増えるかもしれない。ネットの世界には、分断をあおる言葉があふれているかもしれない。
しかし、だからこそ、人と人とが力を合わせて何かを成し遂げる力を信じてほしい。
あの日、長崎で受け取ったバトンの重みを、折に触れ、思い出してほしい。
皆さんが次の明るい時代を切り開く担い手になることを、心から願います。
卒業、おめでとう。
『保護者会だより』に寄せて
73期生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。そして保護者の皆さま、お子さまのご卒業を心よりお祝い申し上げます。
皆さんの卒業は、新たな大人の一員を迎えるという意味で、社会全体にとっても祝福すべきことです。
かつては高校卒業から成人まで2年のタイムラグがありました。今はもう、皆さんは選挙権を行使できる立派な大人です。もちろん、高校生活が終わったからといって、その日を境に急に子どもから大人に切り替わるわけではありません。しかし、卒業が大きな節目であるのもまた事実です。
昨年の集会で私は大人と子どもの違いについて話しました。「世界を回す側」が大人で「回っている世界に乗っかる側」が子どもだとしたら、高校生活を含めた10年ほどが皆さんにとって「回す側」の大人になっていく時期になる。そんな趣旨でした。
大人として「回す側」になると、何が変わるのでしょうか。
生活者として自立しなければならない。成人として義務や責任が重くなる。確かに背負う荷は重くなります。しかし、皆さんにあらためてお伝えしたいのは、「世界を回す側」はおもしろい、ということです。
高校生活や大学受験は「正解のある世界」でした。「世界を回す」ことには、決められた答えはありません。どんな社会を作り上げていくのかは私たち自身の選択にかかっています。その中でどんな人生を送るのかも、皆さん自身が選び取っていくのです。
すぐに一人前の大人にならなければ、と焦る必要はありません。皆さんの前にはさまざまな可能性、さまざまな選択肢が広がっています。千葉商科大学付属高校で過ごした3年間を礎として、自分で納得のできる人生を歩みだしてほしいと願います。
不確実性が深まる時代だからこそ、「世界を回す」という共同作業の価値はこれまで以上に高まっています。簡単ではないからこそ、おもしろく、やりがいのある仕事です。
「世界を回す側」の先輩として、皆さんが私たち大人のチームに加わることを心から歓迎します。
おめでとう、そして、ようこそ。
今日のSHODAI
「桜不在」になっていた母校へ、卒業生たちから素敵な贈り物