Bad Englishでいこう
今年もフランスのイオネスコ高校との「交換ホームステイ」が行われ、日本に1週間滞在した生徒たちを送り出す「フェアウェルパーティー」が5日に開かれました。
パーティーの最後には、別れを前に感極まって涙を流す生徒がちらほら。
(これは涙腺にぐっと来るなぁ)と感じ入っていたところ、隣りをみると、引率のフランス人の先生がポロポロと涙をこぼしていました。
“We did a great job, didn’t we?”と声をかけ、”Yeah, we did!”と返事があって、固く握手しました。
プログラムのリーダーのY先生も「この瞬間のために、1年かけてやってるんですよね」と感無量の様子でした。
交換ホームステイはこんな流れです。
まず昨年12月、千葉商科大学付属高校から5人、市川高校から3人、昭和学院高校から2人、あわせて10人の生徒がフランスで約1週間、ホームステイしました。
そしておよそ半年後、今度はイオネスコ高校の生徒10人が日本にやってきて約1週間を過ごします。
つまり、ペアとなる生徒たちは「バディ」として、1週間はホストとして、1週間はゲストとして長い時間を一緒に過ごすわけです。おそらく、冬の日本側の訪問から初夏のフランス側の訪問の間も、生徒たちはSNS等を通じてコミュニケーションをとっているでしょう。
だからこそ、冒頭でご紹介したように、最後の時間が感動的なものとなります。
お互いの生徒たちにとって、この出会いは一生忘れられない思い出になることでしょう。
この交換ホームステイは姉妹都市である市川市とイッシー・レ・ムリノー市の支援のもとに実施されています。あらためて、素晴らしいプログラムを提供してくださるイシーと市川市に感謝いたします。
パーティーでは、表敬訪問の際に田中甲市長からいただいた千葉名産の大きなスイカも食卓に並びました。
フェアウェルパーティーのハイライトのひとつは、日本の生徒たちが作った滞在中の動画の上映でした。
我が校で体験してもらった、おにぎりとお味噌汁のランチの調理実習、書道、柔道などの様子とともに、みんなで「だるまさんがころんだ」で遊ぶ姿も映し出されました。上映中は日本人もフランス人も一緒になって歓声と笑い声をあげる大騒ぎ。動画が終わると、保護者の皆さんもふくめて、大きな拍手が起きました。
国境をかろやかに超える若いエネルギーと、半年かけてはぐくまれた友情が伝わる素晴らしい企画でした。
日仏の若者たちの笑顔を見ていてあらためて感じたのは、国際交流に大切なものは何か、ということです。
英語が重要なのは、言うまでもありません。
でも、英語力より、もっと大事なものがあります。
それはオープンマインドな心のあり方と、少しの勇気です。
「国際交流プログラムに参加するのは英語が得意な特別な生徒だろう」というイメージを持つ方がいるかもしれません。
もちろん中には英語の得意な生徒もいますが、実際にはそれほど流暢ではない生徒もいます。
そして、バディとのやり取りをみていると、英語の得手不得手とコミュニケーションの深さは、実はさほど関係ないことが分かります。
目と目を合わせて、声を掛け合い、時にボディランゲージもまじえて心を通じ合わせる。
英語力より、距離を詰める一歩を踏み出す勇気の方が、ずっと大事なのです。
田中市長への表敬訪問の際のご挨拶の中で、こんな話をしました。
Still, I must confess I feel a bit strange.
We, who both have such beautiful native languages, are communicating in English—this “third language.”
Part of me feels a little sad that we can’t all speak in our own sophisticated mother tongues.
But… c’est la vie, right?
(さて、それでも私は少し奇妙な気持ちを抱いています。
美しい母語を持つ私たちは、英語という「第三の言語」で意思を伝え合っています。
このご挨拶も、この後、イオネスコ高校の皆さんに向けてあらためて英語でお伝えいたします。
洗練された母語を通じて話せないのは残念ですが、人生、そういうものかもしれません。)
English may not be as refined as French or Japanese, but it has its strengths—it’s direct and often gets the point across.
When I lived in London as a newspaper correspondent for two years, I learned one important lesson:
English is not the global language. The true global language is Bad English.
(英語は、フランス語や日本語ほど繊細ではないかもしれませんが、率直で、誤解の少ない言語です。
私はかつて新聞記者としてロンドンに2年間駐在しておりましたが、そのときに学んだ最も大きな教訓は、
「世界言語は英語ではなく、Bad Englishである」
ということでした。)
Now, I know the students from Ionesco speak much better English than I do.
But I still hope that, over the next few days, we can all set aside our beautiful, sophisticated native languages and enjoy this shared journey—full of small misunderstandings, discoveries, and laughter.
And I’m sure it will be a wonderful experience for all of us.
(イオネスコ高校の皆さんの英語が、私のようなBad Englishではないことは承知しておりますが、残りの日程の間、私たちの洗練された母語を少し封印しながら、共に豊かな経験を重ねていただければと願っております。そして、必ずそうなると確信しています。)
「Bad Englishでもいいから、どんどん話そう」は私の持論です。
日経新聞のロンドン駐在記者だったという経歴を話すと、流暢な英語の使い手だと思わがちなのですが、謙遜でもなんでもなく、私の英語はBad Englishです。会話の最中に「我ながら、文法も発音もメチャクチャだな」とあきれること、しばしばです。
帰国子女でもなければ留学経験もなく、英会話に本腰を入れたのは30歳近くになってから。悲惨で滑稽な足取りはこちらのとても長いnoteに書きましので、ご興味があれば。
夕食で鰻を一緒につついているとき、イオネスコ高校で英語を教えているという引率の先生が「Bad Englishのスピーチはとてもよかった。あなたの言う通りだ」と賛同してくれました。なお、彼の英語は私とは大違いの流暢なものです。
6日早朝の便でイオネスコ高校の皆さんが帰国の途に就きました。
今月にはもう、今年の年末にホームステイに向かう生徒たちへの説明会が始まります。
実はパーティーには1年前にホームステイに参加した大学1年生6人も参加してくれました。驚いたことに、そのうちの1人の男子はフランス語を勉強中で、大学の留学プログラムを利用して渡仏を計画中とのこと。
ロンドンに帯同した自分の娘たち(我が家は三姉妹です)を見ていても思うのですが、若いうちに自分自身の目で「日本以外の世界」をみる経験は、大きく視野を広げます。
1年後にまた、一歩踏み出す勇気を身につけた生徒たちの姿を見られるのを楽しみにしています。
今日のSHODAI
